いのちばっかりさ

生きている記録。生業。放送大学。本を読む。入道雲100年分。

朝から靄と母屋の概念

家に母屋があったことはない

家に靄がかかったことは

ひとりで住んでいたとき

草の匂いとともに

いちめんかおり開けた窓から

畳にいきわたったいちぢくのにおい

なつかしく思い出しては

腕をつかんだ

 

せめさいなんだ自分を手放し

あとで土になることもなく

焼かれてしまうことだけが残念だ

土葬されるために知らない土地まで歩くことはできない

この生活を土に刻んで

乳の中に眠るだろう

 

汚い音を消して

二度と自分を苛むような言葉を

日常において口にしない

あなたに会い

止めようとしたけれど

まだ切り刻む

土に呼ばれると走り出した

 

寒い冬になってもいちぢくの衣を着て

夏に耐えられない死相が

真っ直ぐに張り付いて

太陽までの道を舞っている

なぜ歩き回るのか

拳を打ち付けて音を消しても

もう起きない自分の子供

いちぢくのにおいが頭の中に靄のように

母屋のなかにだれか

好きな人を隠して

 

その苔を剥がして

せめさいなんだ言葉を消して

乳の中に倒れて

大地に生活を刻んで

硬直した世界から

溶け出す体は全て腐って

夢のように世界の霧の中に

いつまでも太陽までの道の中に

誰もの血になり

呼吸を助けてくれ