いのちばっかりさ

生きている記録。生業。放送大学。本を読む。入道雲100年分。

雨の日(気分悪い話注意)

 お金がないときになぜか博多に行ったことを思い出した。安いLCCで、いろんなところへ飛んでいた。私にも見えない場所へ行く権利があると主張しているみたいに行動した。激しくほとばしるように、だるい体を起こして進んだ。その日博多に向かう飛行機に乗るのにひどく手間取った。電車が止まり飛行機が遅れた。

 

 博多に着いて友人に会った。あの頃と比べれば今はずいぶん私も変わった。彼を友達とは思わなくなった。信頼できない面を多く知った。それはまあいいやと思っている。人のこと言えないし。

 

 博多で朝目覚めると、電話が来てあの人が死んだと知った。私は自分が泣き真似をしているのか、いや教えてもらった義理で泣いたふりをしているのか、本気で泣いているのかわからなかった。とにかく、私の感情を表すのには実際に泣く必要はなかったから付録であったことは間違いない。台風か何かが近づいていた。私はこんな私のような遠い身分の者でも連絡を受け取ることがあるのだなと思っても良いはずだった。でもその時は連絡を受け取ったことは当然だと捉えていた。私はその人の生き死にに関して責任を取らなければいけない身分であると自分で思っていたのかもしれない。何を思っていたのかもうわからない。

 

 なんらかの優秀な人々が、平凡な人々が、あの人の死の後も勝ち抜けていることに強烈な寂しさを感じる。いやそうじゃなくて、あの時は台風か何か近づいていて、私は夜になってやっと東京に帰ることができた。その時はもう解剖されていた。死んだと思った人が火葬場で生き返るみたいな話なんか聞いたことがあるのに、死んだ日に解剖する必要があるのか。いや違う。解剖は翌日の朝だったのかもしれない。もう何も覚えていない。とにかく面会した際にはもう解剖され縫合されていた。東京に帰還する時はLCCで帰った。それがまた遅れにつながった。その時はお金がないからLCC以外の飛行機は自分の乗るものではないと思っていた。頼めば誰かお金を貸してくれたかもしれないが、数万円の金を来月どうやって返済のためにひねり出すのか、それを考えつかなかった。でもこれは果たして金がどうとか言う話だったのだろうか。私は他人を信じることができなかったのだ。金を借りることで誰であれ他人に借りを作ると言うことを自分に許せなかったのだ。許せなかったなんてまたこれも責任転嫁だ。何もかも、そう言うふうにしか考えられないように自分を矯正していたんだ。

 

 私は死んだ一人の人間に関してどれだけの数、上塗りに下塗りを重ね、エコーにかけて煮たり焼いたり、踏んだり蹴ったり、いったいどんだけ考え直すんだ。人間が死んだと言うことについて考えているわけではない。多分、もしかして、その人が死ぬまで、その人に対してなんのリスクも負うことができなかった自分と、それを見ているあの人、そしてその道があの朝方の死へと続いている映像を、なんども色んなアングルからみて、悔やんで、正当化して、他の人間など死んでしまえと思って、無為なことに1日1日を放り込んでいるだけだ。人が死んだところへ行ったって、人が死んだ時の気持ちなんかわかるわけない。立ち直る人を見ても立ち直る気になんかなるわけがない。最初からひしがれてもいない。

 

 美味しいものを食べるたび、素晴らしい湯に浸かるたび、この場所はきっとあの人には踏まれていないだろうと思う。少し自分と死の間に隙間が空いて、風を吸える気がする。私は満足した豚になりたくてたまらない。かわいそうに死んでしまって、そう言う高慢さを身につけて、長生きして、その狡猾な仕事の末に成り立った死に様からはできるだけかけ離れた場所で、平穏なだらしない死に方をしたい。頼むから迎えに来ないでくれと思っている。逃げるために人生を丸々使って、やっと逃げ切って自分の人生を手にできるんじゃないか。それは馬鹿らしいことだと昔の自分ならば言うが、今はそうは思わないし、そんなのがやり方だと認める。

 

 今日教習所の帰りに角を曲がった時、寒い風が来て、初めて伸ばしている前髪をバッっと吹き上げて、その時にまじまじと思い出した。小学生の時に食べていた出前の中華の八宝菜の味、出前の中華の春巻きの味。とろみの光り方、黒いプラスチックのトレーを開ける時に指に伝わるぱきりっという感触。でもその記憶には誰もいない。いい子ぶっている自分がいるだけで、そこにいたはずの人が登場しない。こういうのは書いたら初めて泣くことができる。もうそんな話はいいよと初めて考えるのをやめることができる。勝ち抜けている人間それはわたしじゃないか。

 

 

 

youtu.be

 

2円で刑務所、5億で執行猶予 (光文社新書)

2円で刑務所、5億で執行猶予 (光文社新書)

 

 

出前姫 民話ボンボン (ビームコミックス)

出前姫 民話ボンボン (ビームコミックス)

 

 

浅草鬼嫁日記 あやかし夫婦は今世こそ幸せになりたい。 (富士見L文庫)

浅草鬼嫁日記 あやかし夫婦は今世こそ幸せになりたい。 (富士見L文庫)

 

 

巨悪の正体 あなたは、なぜカスなのか?

巨悪の正体 あなたは、なぜカスなのか?

 
真理と正当化: 哲学論文集(叢書・ウニベルシタス)

真理と正当化: 哲学論文集(叢書・ウニベルシタス)

 

 

 

死ね!

死ね!