まだ未明のまちに
開場のホイッスルがなり
市場の裏にある暖かい食堂で
思い出しながら見る写真は家族のものでもなく
あなたをしまって
市場の地下へおりていく
私の欠けた犬歯に
住み着いているあなたの笑顔は
私が笑うたびに私に宿って
この地下から朝を引き出す
捨てて捨てても
まだ命の中から家路を辿る
魚臭い両手をぬぐいながら
薄ガレ川の裏
水面を覆うようにバルコニーが出ている家
静かに
ただ健康に過ごしてくれれば
そのことだけ
思いながら祈りをノブに込めて
帰ってきた家には
今は君がいていいね
取り残される日にも必ず追えるように
命と仕事を選んでいる
どんな穴に落ちても
家には帰ることを決めている
人の人生はなぜこんなにも短く
四隅には悪霊が宿る