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いのちばっかりさ

その金字塔/ 絶対自立

加藤徹『貝と羊の中国人』を読む 中国と日本の英雄

 この本を読んだ。

貝と羊の中国人 (新潮新書)

貝と羊の中国人 (新潮新書)

 

  中国の英雄と日本の英雄について説明されている部分が特に面白い。ちょっとそのことについて書きたい。ちなみにこの本で英雄とは「常人にはできぬ偉業を成し遂げ、歴史に名を残す人物」をいうと、著者が書いている。

 

 私は中国の英雄について詳しくない(かの有名な三国志でさえも「人物多すぎ。」という理由で何回も挫折した結果、今に至っても読み通したことがない)ので、この本にある英雄に関する記述を、知識に照らして実感できないのが残念だ。とはいえ孔子孫文毛沢東も取り上げられているし、新しい人物が出てくるときには、その都度どんな人物であるか分かりやすい説明がされている。そのため中国の歴史や英雄に詳しくなくとも読むことができる。最近の新書は本当にやさしい。

 

 この本によると、中国史の英雄には「流浪の英雄」が多い。流浪の英雄として挙げられているのは、晋の文公、儒学の祖である孔子(十四年間ものあいだ流浪した)、三国志劉備(傭兵集団のリーダーで、流浪のプロ)、孫文(12才のときにハワイに渡り、外国で革命の資金集め)、毛沢東(長征を行った)や張学良(日本軍に追われて各地を転々、結局100才まで生きる。個人的にかなりハンサムだと思う。)などである。

 

 中国人は英雄に限らず流浪に慣れている民族なのだそうだ。古くから中国では王朝交代のたびに流民が発生し、天才や戦乱の折には農民さえも田畑を放棄して流民になった(これに対して日本の農民は、大飢饉の折には流浪できず、その地にとどまったまま大量に餓死した)。また中国人はアメリカの大陸横断鉄道の建設の労働者として働いたことが本書で紹介されているが、古くから華僑の技術を身につけていた。それら流浪の人々の文化や技術は定期的に流浪しない一般の中国人に交わり、一般の中国人にもその文化を伝えた。

 

 比べて日本の英雄は流浪できない。国土が狭いこともあるし、そもそも民族として流浪に慣れていないので、流浪しないし、もし流浪を迫られると、たちまち先細りして攻め滅ぼされてしまう。源義経だとかもそうである。新撰組とか都落ちした後の平氏とかもそうである。本書によると、日本史でたった一人の流浪の英雄は神武天皇とのことである。神武天皇は宮崎県辺りから出て瀬戸内海沿岸と紀伊半島の各地を流浪した末、大和を征服した。事実なら神武天皇は流浪の英雄である。

 

 英雄というと、歴史上のものだけでなく、架空のキャラクターもあるではないかと思うが、本書によれば、中国人は架空のキャラクターである英雄よりも、歴史上の英雄が好きなのだそうだ。私の中国の友人は、子どもの頃に母親から三国志の登場人物がそれぞれ何を成し遂げたか、その人柄や生まれ等について事細かに教わったそうである。その様子はちょうど日本人が親に絵本を読んでもらうような感じだ。

 

 この本では中国の英雄だけではなく、中国のヒーローについても書いてある。書中でヒーローは中国語でいう「好漢」のことと考えていいと書いている。英雄とは「常人にはできぬ偉業を成し遂げ、歴史に名を残す人物」のことだが、ヒーローは「失敗や欠点があっても、人間味が豊かであると大衆が認める人物」のことを指していると書いている。英雄だがヒーローでない人物、ヒーローだが英雄でない人物、両方いる。

 例えば 司馬仲達は英雄だがヒーローでないのに対し、諸葛孔明は勝算の薄い北伐を行い命を落としたにもかかわらず、ヒーローである。曹操劉備も、結局天下を統一できなかったので英雄としてはいまいちだが、ヒーローとしては最強である。後漢を建国して初代皇帝になった光武帝は英雄として完璧すぎるので人間としての面白みに欠けるらしい。本書中では、例えば日本の寅さんは、下町の英雄ではないがヒーローであるというたとえを挙げている。アンパンマンとかはどうだろうな、と考えてみるが、まああれは英雄ではあれど、ヒーローであるかはなかなか難しいところだなと思った。

 

 このほかにもヒーローと血筋や社会階級などについて書いてある部分も面白いが、ここでは割愛する。この本ではヒーローの話以外にも、中国人にとっては「功と徳」は分けて考える二つのものである、という話だとか、華僑は中国本国に対してどのような心持ちで居るかなどの話がとても面白かったです。

 

  

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