いのちばっかりさ

生きている記録。生業。放送大学。本を読む。入道雲100年分。

横光利一『上海』 上海は魔都だった

 

上海 (岩波文庫)

上海 (岩波文庫)

 

 

 「上海は魔都だった」というのはよく言われている。でも「魔都」ってなんなの。上海には租界があった。各国人が歩き回り、西洋風の建物が建てられ......でもなぜ魔都と呼ばれたのか。それが分かる、体感できる一冊。

 

 

 この本を読む事になったのは、『伝説の日中文化サロン上海・内山書店 (平凡社新書)』に芥川龍之介の『上海遊記』と一緒にこの本、横光利一『上海』が紹介されていたからだ。内山書店とそこに集まった知識人について書いた本だが、これもとても面白い。内山書店は現在は神田神保町すずらん通りにある、中国・アジア関連書籍の書店である。戦前は上海に店を構え営業した。かつては魯迅や谷崎に始まる名だたる日中両国の知識人が訪れた日中文化の架け橋的存在であったという。

 

 『伝説の日中文化サロン上海・内山書店』によると、芥川は大阪朝日新聞社の特派員記者として中国を訪れるが、古典中国のイメージに期待していたので、それが裏切られ、つまらないと感じたようだ。しかし芥川は横光に、上海を見ておくべきだと言った。欧米や日本などの列強の支配下にあった上海。そこは人間の生きる意味や国民として生きることの意味について考えさせられる場所だった。横光はその上海の日本人と中国人の姿を、5・30事件をモデルに、書いた。

 

 この小説を読んだ後では、国家や支配、差別などが、ある部分は政治の問題であり、ある部分は人間の精神の問題であるということを思うようになった。それは人間がどこまで真剣になれるかの限界の問題でもあり、結局何十年経っても解決策が見つからない事が当時の上海にあったまま、いまここにも確実にあるということを思い知る。これから海外に駐在して働く人、国家を大して意識していない日本人にも読んでほしい本です。ナショナリズムはどこからやってくるのか?それを考える助けになると思います。国会議事堂前でデモをしている人たちにも読んでほしいです。この小説は文章もとてもよいし、読書中、何度も忘れられない表現に出会いました。

上海 (岩波文庫)

上海 (岩波文庫)

 

 

伝説の日中文化サロン上海・内山書店 (平凡社新書)

伝説の日中文化サロン上海・内山書店 (平凡社新書)

 

 

上海游記・江南游記 (講談社文芸文庫)

上海游記・江南游記 (講談社文芸文庫)

 

 

  【書中に出てくる気になる飲食】

 ・サルサパリラ 上海の踊り子、宮子が夜踊ったあとに飲むことにしている飲み物

  サルサパリラは植物であり、ドクターペッパー黒松沙士にもふくまれている。当時飲まれていたものがどんなものだったかは分からないが、下にリンクを貼った黒松沙士は1950年発売で、宮子が飲んでいたのは5・30事件があった1925年ごろの設定なのだから、黒松沙士ではないことが確かである。サルサパリラと言われる飲み物はたくさんあるようなので、そのうち飲んでみたい。 

黒松沙士 台湾コーラ

黒松沙士 台湾コーラ

 

 

 私はちかごろ中国に引きつけられたような気がする。